21世紀の日本

4.食糧・エネルギー安全保障と産業の方向

4 食糧・エネルギー安全保障と産業の方向(1)(2)

世界69億人の内8億人が飢餓や栄養不足にあり、さらに日本の2/3相当の8,000万人が増え続けている。FAOは食糧生産について、穀物20億 トン、食肉・卵3.2億トン、魚介類1.2億トン(2005年)の現状から、畜産用は飼料の穀物が人類の主食と競合するため、動物性食品は海の生産力に頼 らざるを得ないとしている。

(1)食糧問題

世界の人口と食糧の動向・現状

【人口と食糧供給量推移】 単位:億トン、( )内:1人当たり食用供給量=Kg 〔FAO(国連食糧農業機関)統計等〕

 

人口

穀物
〔食用・飼料〕

動物性
〔食肉・卵 ・魚介類〕

食用計
(1人当たり=指数)

1950年

25億

4.3
〔 3.0 ・ 1.3 〕

0.9
〔0.5 ・ 0.1 ・ 0.3〕

3.9億トン
(156kg=100)

1985年

49億

16.5
〔 9.7 ・ 6.8 〕

2.6
〔1.5 ・ 0.3 ・ 0.8〕

12.3
(251kg=161)

2005年

65億

20.2
〔12.1 ・ 8.1 〕

4.4
〔2.6 ・ 0.6 ・ 1.2〕

16.5
(254kg=163)

1950年⇒85年
 人口2.0倍 : 穀物4.1倍 : 動物性食糧2.9倍〔食肉3.0倍 : 卵3.0倍 : 魚介類2.7倍〕 : 食用3.2倍

1985年⇒05年
 人口1.3倍 : 穀物1.2倍 : 動物性食糧1.7倍〔食肉1.7倍 : 卵2.0倍 : 魚介類1.5倍〕 : 食用1.3倍

 

B 食糧格差問題

【FAOの予測を超えた海の潜在能力 Capacity】

FAOの1987年予測は、畜産は主食と競合する穀物飼料を生産量の3~4倍要するので、潜在力のある海の魚介類増産に頼らざるを得ず、当時8千万トンの魚介類は21世紀初頭に1億トンになるとした。 実際は中国の飛躍的増産が寄与し、

2005年1.2億トン、2006年1.4億トン(海藻は別)を実現しており、海が持つCapacityの大きさが再認識された。

 

しかし、先進国の肉食嗜好で肉・卵生産量も伸び続け、05年に食肉2.6億トン+鶏卵0.6億トン=3.2億トン

に達した。 その結果、食用に回るべき穀類が畜産用飼料に供されて貧困な国や地域の飢餓を招いた。

 

C日本が担うべき魚介類増産

05年の1人当たり動物性食糧生産量は68kgになったが、貧富の格差が食糧の量的・質的格差を広げており、

今、穀物を人間の主食に回し、動物性食品は魚介類増産によって不足地域に供給することが求められている。

そのために、1人平均50kg/年(動物性食糧供給:1950年≒35kg ⇒05年≒68kg/人)を確保する上で、

既に飢餓・栄養不足状態にある世界の8億人分の動物性食糧供給には4,000万トンの魚介類増産を必要とし、さらに毎年増え続ける8,000万人分として400万トンずつ増産を続ける必要がある。

それには(経済水域が広い)米・仏・豪・露・加・日・ニュージーランド・英・ブラジル・チリ・インドなどが積極的に海の力を引き出して魚貝類生産を伸ばすことが不可欠であるが、中でも、とりわけ豊かな海と、高度な漁業技術を持つ日本がその役割を担うべきであるが、それは後述のように十分可能なことである

 

(2)日本が目指す産業の方向

【 産業動向の見方 】

経済復興が叫ばれているが、本質的な意識変革と抜本的構造改革を進めなければ経済再生は無理である

その根拠は

1国際情勢:戦後日本と同じ構図のアジア諸国の技術進歩と低コスト、円高。

2人的条件:急激な少子高齢社会、21世紀末には現在の4割になる我が国の人口。

3食糧とエネルギー:食糧・エネルギー安全保障の不備。 を見れば歴然である。

 

20世紀は

①国際情勢:国を挙げて産業を興して輸出を伸ばす余地があった。

②人的条件:人口が増え、都市に流入した低賃金労働者が産業を支えた。

③食糧とエネルギー:膨大な貿易黒字で食糧と原油が買えた。 という条件が揃っていた。

 

中国も同じで

A国際情勢:先進国がバブルや停滞期でコスト高が影響して国際競争力が低下した。

B人的条件:沿海部に流入した低賃金労働者によって「世界の工場」の労働力が補充された。

C食糧とエネルギー:基幹産業として農業・漁業・石炭業を育成し自給をほぼ達成した。

 

21世紀における産業予測と日本の役割

21世紀は人口と経済の収縮で1980年頃のGDPに戻る可能性があるが、当時は今より夢があった。今、重要なのは次の事実を認め、食糧と健康な生活と安心を得るために、産業において本質的な転換を図ることである。

2000年に総人口と現役世代人口〔その80%相当が労働人口〕がピークになり、減少が始まっている。

僅か40年後の2050年は現役世代が現在の6割、2100年には3割になって全てが縮小する。 廃棄物やCO2をこれ以上排出することができない状態にあり、道路・橋・ダム・ハコモノ建造は最小限に留めないと近い将来に補修費に追われて残骸を曝すこ とになる。人口減少を早期に社会形成に織り込むべきである。

 

②工場で作られる製品は、コストの低い新興国や後発国が生産主体となることを覚悟しなければならない。

学力・技術力の低下と人口急減の日本が、製品輸出や内需で経済再建が可能とを考えるのは幻想であり、分子生物学応用による先端産業(医療・環境再 生・農林漁業)、太陽エネルギー発電、淡水製造・輸送プラント、材料長期保持技術・耐久性構築物建造、などの分野を絞った特化技術の育成に力を注ぐべきで ある。

 

③食糧増産を進めないと飢餓人口は2025年に20億人に上ると予測され、必ず紛争・戦争が起きる。

気候変動、農業・畜産の単収アップ、急速な東アジア工業化は食糧生産に悪影響を及ぼし、狂牛病や鳥インフルが大発生して獲得競争が激化する可能性が高く、米・ロなどが食糧政策に一層力を入れている中で、

日本も、早急に農林漁業を立て直し、食糧の自給から輸出に転じる施策と技術開発を急ぐ必要がある。

 

農林水産物はきれいな空気・土地・水で、安全で品質の高いものが生産されるが、その条件を備えている日本は、農材漁業育成によって 生活の要である食糧及び木材など再生産可能なエネルギーと材料を確保し、気候変動や化石燃料枯渇に対応できる『食糧・エネルギー安全保障』確立を急ぐべき である。

 

4 食糧・エネルギー安全保障と産業の方向(3)(4)(5)

(3)食糧・エネルギー安全保障の基軸となる農林漁業

これからは、まず、食糧・エネルギー安全保障を確立して国民の命・健康・生活を守ることを最優先して、『農林漁業を成長産業に変貌させる』ことを基本政策として産業・経済を立て直す必要がある。

そのために、農薬削減、農業・生活排水改善、田畑・河川・湖沼・里山・山林・干潟・海底・海岸の再生によって健全な環境を取り戻して生物資源の回復を図ることが求められる。

次いで ①農家の自主性に委ねた多様な農作物奨励、農地法の見直しと意欲のある農業法人の参入促進。
  ②CO2を減らす植物資源(木・竹・草・海藻等)の生産増大とバイオ燃料を含む燃料への利用。
  ③藻場造成と海藻養殖による海中林形成・海藻繁茂と、魚介類培養による豊かな海の再生。

によって農林水産物の生産強化を図り、食糧・エネルギー(量的・質的)安全保障確立を目指すべきである。

 

(4)世界の動物性食糧を補う漁業

中国は、日本の2のEEZで資源培養を図り、25年で生産量を20倍に伸長させ、日本の10倍の(07年)生産量5600万トン(単位面積当たり生産量は日本の30倍)達成して13民の動物性食糧自給を果たした。

日本は、世界一多様な水産生物が生息する肥沃で世界6位の広大なEEZと、世界一の漁業技術を持ちながら世界一の水産物輸入国に転落したが、中国の実例に倣って海が持つ潜在能力を引き出せれば、中国と肩を並べることができ、その実現で人類の食糧危機を救うことができる。

日本が、EEZ面積当たり生産量を『中国の1/3』に引上げると、現状の10倍の5500万トンとなる。

その内5000万トンを魚介類、500万トンを海藻とすると、国内消費以外の魚介類4000万トンは、飢餓状態にある8億人に対して、1人50kg/年の動物性食糧を供給(輸出)することができ、平均単価30万円/トンの時(水産物輸入平均は約50万円/トン)、輸出額12兆円で、海藻輸出400万トン・15万円/トン(生換算)を加えると水産物輸出は12.5兆円となり、2009年輸出総額54兆円の23%に相当する一大産業となる。

【日本と中国の漁業・養殖生産量推移 (単位 万トン)】

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中国の生産量は日本の10倍で人口も10倍。人口当たり生産量は同程度だが、水産物輸出は世界1位である。

日本の60倍もの1,300万人の漁業従事者が内水面やEEZ域内の資源培養と集約的利用に取組んで漁獲を増やし、淡水性草食魚類・無給餌の貝類・海藻の養殖が伸長し、漁業・養殖とも急激に伸びている。

 

 

(5)漁業を成長産業に飛躍させる

A 国の無策が招いた漁業の現状

世界一豊穣で世界6位の広大な海を持つ日本の漁業行政は無策続きで漁場荒廃が進み、現在は300万トン前後、約1.5兆円もの水産物輸入を続けているが「この50年間一体何をしていたのか」という疑問が湧く。

日本の漁業生産伸長はマイワシ資源に支えられて、80年代(200浬時代)に1200万トン台まで伸びたが、マイワシ急減と200浬対策失敗で50年前の500万トン台に戻った。その実態は、廃水垂れ流し・埋立・護岸・無秩序な海砂採取によって砂浜・干潟・藻場を消滅させ、貝類・甲殻類・魚類の産卵・育成・棲息場所を奪い、海藻を枯らして磯焼けを広げるなど、海を破壊し続けて、水産資源を人為的に減少・枯渇させたものである。

 

水の浄化を受け持っていたアサリ・アカガイ・トリガイ・タイラギなどの濾過食性二枚貝が埋立で急減し、アサリは生産量6~12万トンから95年以降4万トンを割ったままで、山口県瀬戸内側は85年7000トンから2006年4トンに激減した。貝類等が行っていた海水浄化作用が無くなったために海の汚れが急速に進んだ。

200浬時代を見越して大手漁業・水産会社が漁業から撤退し、蓄積した資金・技術・情報を使って海外の魚介類を買い漁って日本市場に送り込んだために漁業は一層追い込まれて衰退に拍車を掛けた。

漁業は就業者の面でも深刻で、10年毎の就業人口は58年(72万人)、68年(57万人)、78年(48万人)、88年(39万人)、98年(27万人)、2008年(推定:約20万人)と、50年間に50万人が減り、残った内の約半分は60才以上という状況で、補充がなければ、10年後に13万人、20年後に8万人以下で、漁業者が居なくなり、 早急に手を打たないと数の減少に加えて漁業技術の継承が途絶えてしまい再生不能になる。

 

B 養殖・増殖の実態と漁業再生の筋道

コンブやワカメなどの海藻養殖、ホタテやカキなどの貝類『増養殖』、ブリなどの海面魚類養殖を同列にみる人が多いが、実は決定的な相違がある。この問題を突きつめると日本の漁業政策のあり方が分かる。

海の農業である海藻養殖は肥料が不要で、農業より効率的で自然の恩恵が大きい上に、繁茂する海藻自体が

藻場や海中林となり、稚貝・稚魚の産卵や成長に寄与して資源培養効果を発揮する。貝類の増養殖は無給餌で動物性食糧を生産でき、生産量の5倍前後の穀物餌料を与える畜産よりはるかに効率の高い収益事業である。

ブリ・タイ・サケ・マグロ等の海面魚類養殖は、肉食動物のトラ等にウサギの肉を与えるのと同じ仕組で、1㎏生産に生換算5~10kgの魚を与える資源浪費産業で、海を仕切って飼育するために手間がかかり、残餌や糞の海底堆積によるウィルス等の病気発生と抗生物質などの薬剤投与のイタチごっこが繰り返されている。

本 来の漁業は、海全体を広い農場や牧場と見なして、生物の有機的な生産・循環の場になるように整備して生産力を最大限に引き出すことが基本で、施策が的確で あれば早期成果が期待できる。成功例としてサケの放流とホタテの地撒きがあり、ハタハタは資源枯渇寸前で3年間休漁しただけで資源が復活しつつある。

 

 

漁業生産を飛躍的に伸ばす

中国は、日本の2割に過ぎないEEZでの魚介類の産卵・育成場形成と、資源培養で海の面積当たり生産量を日本の30倍とし、並行して内水面での草食性魚類養殖を拡大して生産量を25年間で20倍に伸長させ、日本の10倍となった。驚異的増産だが、食糧自給を至上命題として海の潜在的可能性を引き出した結果である。

日本の漁業は、元来は中国よりずっと肥沃で、且つ約5倍の広さのEEZを如何に活用するかがカギであり、中国に倣って魚介類の産卵・育成場を整備して資源培養を図り、海の生産力を高めることが基本となろう。

海の活用は『養殖ではなく増殖』が基本であり、中国が達成したEEZの単位面積生産量(360kg/ha)の1/3を目標にして国力を結集することが求められる目標が達成できれば、生産量は現行の10倍の5,000万トン台となり、漁業生産額は現状の6~8倍、15~20兆円となり、農業+畜産業の粗生産額の2倍規模となる。

このような資源培養による漁業振興は、投資対効果が最も高い生産・経済活動であり、潜在能力Capacityの大きい海を活用して効率よく食糧を手に入れることは、人類が生き延びる上で最も大切な智恵である。

 

その実現には、研究者・技術者を集めたプロジェクトチームを作り、各研究機関で蓄積された基礎・応用データを活用して具体的な増産計画を立て、干潟・藻場・海中林の産卵場や育成場所を整え、地撒きや放流による資源培養を図り、例えばイワシ・ニシン類500万トン、アジ・サバ・サンマ400万トン、タラ類300万トン、イカ類300万トン、貝類200万トン、マグロ・カジキ・カツオ類200万トン、サケマス、ブリ、タイ各50~100万トン等の目標を設定して魚種毎の所要施策を実施して段階的に着実に成果を上げることが求められる。

同 時に、漁業権制度を見直し、農業は農家が土地所有者であるので改革の障壁となるが、漁場は個人所有でない点を活かして、意欲のある企業や団体などが操業で きる新秩序の組立と、人材養成と漁業技術継承・発展を図り、働く人の収入・休暇・福利厚生の改善を図り、若者が依拠できる職場を創生する必要がある。

これらの取組によって、現状漁業従事者20万人に加えて、約100万人の雇用創出が見込まれる。

 

D 海藻バイオ燃料

海藻を大規模に養殖してバイオエタノールを生産するという、夢のような計画が日本で進みつつある。

これが実現すると、事業貢献はエネルギー供給に留まらず、食糧・環境にも貢献すると推測され、日本再出発の推進力になる可能性があり、前項同様に省庁を超えた国のプロジェク事業として取り組むべきである。

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