コラム

魚の味

8.魚の味:『ロシアの食糧戦略』と、『海藻バイオ燃料』

2009年06月10日

  6月6日の朝日新聞「私の視点」にロシアのメドベージェフ大統領の寄稿記事「食糧危機・高い穀物生産力で解決に貢献」が掲載されました。

 

    地球人口増や食糧問題に関心のある方は、一読されることをお勧めします。

 

    ロシアというと、ソ連時代、終戦間際に中立条約を一方的に破って、日本領土であった南樺太・千島列島・満州に軍隊を送り、日本人を連れ去って極寒の地で強 制労働をさせ、栄養失調や寒さによる多くの犠牲者を出したことや、スターリン時代からソ連崩壊まで一党独裁が続き、得体の知れない怖さがありました。ソ連 の解体でロシアとして再出発した後もイメージが好転することがなく、現大統領の座はプーチン現首相から禅譲されたと言われ、指導力に疑問があるとの見方が 多かったように思います。

 

    筆者は先の記事に目を見張り、抱いていた先入感が変わり、大統領の掲載写真に親近感が湧くとともに、現在はもとより、将来の人口・食糧問題を視野に積極的に農業改革を進めていることを明らかにして協力を呼びかけた姿勢に感動すら覚えました。

 

    食糧問題に対して『パンはすべての頭(何より重要なもの)』というロシアの諺を挙げ、「食糧供給水準こそ生活の質を測る第一の指標である。」という考えで 具体的に農地の面積・質にまで言及して『食糧安全保障の保証人になる』ことを宣言し、「合同穀物会社」設立と懸案の穀物輸送などインフラ整備まで踏み込 み、同国が提唱した世界穀物フォーラム(6月6~7日:サンクトペテルブルグ)に臨む決意を表明しています。

 

    そこには、アメリカ同様に食糧を国家戦略として位置付けていることは疑う余地がありませんが、人類にとって最も大切な食糧の供給に任じようとして、圧倒的 な広さの陸地と、私たちが想像するよりはるかに肥沃な土壌を活かして、穀物など食糧増産に邁進する姿勢に敬意を表し、世界の現状と自国の方向を見極めた判 断力に学ぶべきでしょう。

 

    ロシアは地球の陸地の11%を占め(日本の40倍)、近くカナダやEUを抜いて世界の小麦輸出第2位に躍進すると言われ、未開発の土地を活用すれば、アメリカと穀物生産・供給の主導権争いを演じることも遠い話ではないように思われます。

 

    各国の陸地面積は、ロシアに次ぐ第2グループのカナダ・中国・アメリカ・ブラジル・オーストラリアが日本の約20倍、第3グループのEU・インド・アルゼ ンチン・カザフスタンが約10倍(以上がベストテン)、15~20位のメキシコ・インドネシア・モンゴル・ペルーでも4倍前後で、これらの国と農畜産物の 品質・コストを競うのは並大抵のことではなく、日本の農家は限られた条件下で本当によく頑張っていると思います。

 

    食糧問題の目を陸から海に転じると、日本の領海と経済水域の広さは世界6位であり、そこに領土(陸地)を加えた「領土+領海+経済水域」という尺度では、 ロシアが日本の5倍、アメリカ・オーストラリアが4倍、カナダ3倍、ブラジル・フランス・中国が2倍、インドがほぼ同じ1.1倍で、日本はこれら大国に次 いで世界200カ国中10位です。

 

    この尺度で見ると、日本が大国に伍して食糧増産を進めた上で次世代の産業を構築することが可能と思われ、変化に富んだ陸地と広大な海がもたらす自然の恵みを活用できる先見性と技術力こそ、これからの時代に不可欠だと思います。

 

    海は、これまで廃水や公害など消費・生産活動の負の部分を担ってきましたが、ロシアが広大な陸地を武器に食糧戦略を推し進めるように、日本は海と陸が織り なす多様な地形・気候・生物相を有機的に活用して、50年・100年後を視野にした産業育成と食糧政策の立案と推進が求められています。

 

    その可能性のある一つが『海藻バイオ燃料』です。

 

    既に一部の企業や研究機関が名乗りを上げ、水産庁予算が計上されて海藻の多糖類から単糖を作り出す技術開発が進められています(この技術課題解決が待たれます)。

    尚、この計画はアメリカが先鞭をつけ、陸上での藻類育成と単糖の抽出によって事業化が進みつつあるとの情報があり、日本では海で大規模にホンダワラを養殖するという推測がなされ、日本海の大和堆が候補の一つに挙がっているとの情報もあります。

 

    海藻バイオ燃料計画は燃料だけの発想ではなく、もっと広い視野で考えるべきでしょう。

 

    中国の飛躍的漁業生産にコンブ養殖が貢献したことはほぼ間違いないと見られており、日本各地(例えば瀬戸内海沖合など)で大規模に海藻を養殖すれば、海藻の養殖自体が資源培養に役立ち、食糧生産や環境浄化にも波及させることができます。

 

    海藻養殖事業に漁業者や漁協の協力を得ることによって漁業権問題の解決にもなり、漁村再生に直接寄与することが考えられます。

 

    又、アサリなど二枚貝を並行育成すれば海水浄化と貝類増産にもつながるものであり、ぜひ、そのような視点でこの夢のような計画を推進させることが望まれます。

(当ホームページの「海藻バイオエタノールについて:私の見方)」をご覧下さい)

 

    「海藻バイオ燃料」は一例ですが、海は潜在的な可能性を秘め、広大で、しかも3次元という立体的な許容力を持ち、地球の温度調節や海藻と植物プランクトンのCO2固定力は陸のすべての植物に匹敵すると言われることなど、環境面での恩恵も図り知れません。

 

    もっと海を大切にすることを前提に、視線を海に向けて英知を結集すれば様々な恩恵をもたらせてくれると思います。(続きます)

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7.魚の味:足腰のしっかりした身体を作るために

2009年06月05日

ガンや心臓病などの増加に欧米型食生活が関係していると言われますが、その前に「食糧の半分以上を外国に依存する国が、国民の生命を守れるのか」という疑問があります。

経済至上主義や先端産業偏重を見直し、国民の命と健康を守る戦略の下に、食糧自給を目指して農業と漁業を再構築しなければ、日本が足元から崩れていくおそれがあります。

 

私が所属している団体で女性会員の欠席が多くなり、調べたところ70才以上の女性会員の3割の方が転倒による骨折で療養中、又は入院された経験があることが判りました。

どなたも普通の体格で、外見ではお元気そうでしたが、ご本人も気づかない内に筋肉の衰えと骨粗鬆症が進行し、ちょっとしたはずみで骨折してしまったというケースです。

これから少しはゆっくりできるかと思った矢先に、自分の足元が崩れた衝撃は大きく、杖が手放せない方や、身体が不自由で先行きに大きな不安を抱えた方もおられます。

高齢者が足腰を骨折すると、寝たきりや、ウツ・痴呆になることもあり、病気の併発で死に至ることも稀ではなく、介護の負担も大きく、深刻な事態を招くことが多いようです。

又、就学児童のカルシウム摂取が4割も不足し、簡単に骨折するという実態もあり、今の食生活が身体の土台である骨を脆くしていることは疑う余地がありません。

 

骨の健康には栄養・ビタミン・ミネラルをバランスよく摂ることが不可欠で、それには、ご飯、鰹節やコンブのダシと豆腐・貝・海藻入り味噌汁、多様な野菜・肉・魚介類の副食、カルシウムなどミネラルの豊富な牛乳・魚の丸干し・果物等の間食でクリヤできます。

 

私は、イリコを酒のつまみにし、サンマを食べたあとの骨を焼いて食べ、煮魚の残った頭と骨に熱湯をかけてすするなどして、味を十二分に堪能するとと もに、栄養を残さずに摂取するようにしていますが、それができるのは私たちが購入する魚は、産地、天然・養殖の区別、添加物などが明示され、安全な品質が 確認できる「国産品」だからです。

 

『足腰のしっかりした』身体づくりには、質・量ともに安心できるようにコメ・豆・野菜・魚介類を国内で生産する必要があり、消費者の理解の下に食糧 政策の課題を解決し、『足腰のしっかりした』農業と漁業を育てなければなりません。それを早く進めないと近い内に、安全な食糧が確保できない「足元の脆 い」国になってしまいます。

 

景気対策など課題山積の現状ですが、カネで買えない命と健康こそ暮らしの原点であり、次の衆院選挙は、「どのようにすれば命を守れるか」という論点 で、政党は食糧政策を明確に示し、国民はそれをしっかり見抜いて選択することが求められ、政府や官僚は選択された政策を、国民のために責任を持って実行す ることが望まれます。(続きます)

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6.魚の味:魚の成分と味(食肉との比較)

2009年06月03日

《食肉と魚肉の成分比較》 :実測値及び概要値・・・個体差や部位による差異がある

種類:産地・季節など

水分

タンパク質

脂質

灰分・糖質

ブロイラー:ささ身

豚 :ヒレ

牛の赤身 /豚のロース(国産)

牛     :霜降り (国産)

75~79 %

70~74

64~70

46~56

19~23 %

20~22

20~22

18~22

1  %

4~ 8

8~15

25~35

1 %

1

1~2

1

本カツオ(中サイズ):上り

本カツオ(中サイズ):下り

秋サンマ(中サイズ):太平洋

天然寒ブリ(10kg):背/腹/尾

72

67

60

56/48/58

26

25

24

20/17/21

1

6

15

23/34/20

1

1

2

1/1/1

実測値:(財)日本食品分析センターによる

1タンパク質の量と質

タンパク質は哺乳類や魚介類などを構成する基本成分で、牛、豚、鶏、鯨、魚、貝、甲殻類などの筋肉中のタンパク質の割合はほぼ同じでおよそ20%前 後。肉の成分からタンパク質を除くと残りの殆どは水分と脂質で、脂質が少ない食肉や魚は『脂味』のない淡白な味になりますが、イノシン酸やグルタミンなど の『旨味』成分の味わいがあります。

1日当たりタンパク質摂取量の目安は体重の0.08~0.1%で(体重60Kgでは48~60g≒240~300gの食肉や魚肉に相当)、農水省統計では1985年以降80g以上の供給が続き、最近では、量(過剰摂取)・質・味の問題を指摘する声が多くなってきました。

 

2肉の脂肪と味

食肉のタンパク質中の『旨味』成分イノシン酸の量は魚より少なめの0.04~0.2%で、牛肉は豚肉の半分以下のために脂肪が少ない肉は物足りない 味に思えますが、昔から牛肉を食べてきた欧米人は牧草主体で育てた脂肪の少ない牛肉に本来の『旨味』を感じることができるようで、日本のように脂肪を多く した肉は『脂味』と健康面で敬遠されます。

 

日本人が食べる牛や豚は穀物飼料などを多くして脂肪を含ませることに力が入れられ、肩・肩ロース・ロースは脂肪が多く水分が少ないために味が濃厚になり、中でも霜降り牛肉が最上とされ、豚ロースも脂肪が多いものを評価する傾向がありました。

しかし、食肉脂肪は常温では固体で、飽和脂肪酸が多く含まれるために摂取後に体内で蓄積しやすく、LDLコレステロール(通称:悪玉コレステロー ル)の要因になるなど健康面の問題が指摘され、最近は、肥満を嫌ってカロリーの低い食材を望む傾向が強くなり(成人女性の肥満割合が減少している)、食肉 の脂肪を減らす動きが強まっています。

 

牛肉中の脂肪は一般にヒトの体温より融点が高く、ナマで噛むとベトつく感じですが、調理の熱で融けた時に『脂味』が強くなり、日本人の多くはこれを賞味してきました(ステーキを熱い鉄板に載せて出すのは脂肪が融けた状態を長時間保つ目的があります)。

豚肉のタンパク質はイノシン酸が多いので『旨味』があり、脂肪が牛より融点が低いので冷めていても食べた時に口中で融けますが、揚げたてのトンカツは脂肪がよく融けて口中に広がるので『うまい』と感じます(これを「ジューシー」などと表現する人もいます)。

 

3魚の『旨味』と『脂味』

魚介類のタンパク質にはイノシン酸が多く、それだけも『旨味』がありますが、別の旨味物質グルタミンがコンブ・青魚・貝類に多く含まれており、両方 の旨味成分を含んだ魚介類や、魚や貝と一緒に海藻を食べた時に(鰹節とコンブのダシを使った時と同様の相乗効果で)『旨味』が一段と引き立ち、なんとも言 えないうまさを感じます。

 

魚介類にはこの他に様々な旨味成分が魚種ごとに含まれて各々の味が形成され、産地・季節・成長度によっても成分が異なるので味の多様性を楽しむことができます。

例えばサンマはタンパク質中のイノシン酸が多い上に、焼いた時に脂肪油が表面に出て『脂味』が倍加されて特有のうまさを感じますが、脂肪油は常温で も味わえるので、刺身では『旨味』にやや抑えた『脂味』が混じったうまさを味わうことができます。尚、サンマは太平洋と日本海では脂の乗りが異なり、産卵 の前後でも味が大きく変わります。

 

4魚の脂肪油

サンマ、ブリ、カツオ、マグロ等の春から夏に日本近海を北上する回遊魚はオキアミやコペポーダ(動物性プランクトン)を直接又は間接的に(魚を経由 して)摂餌しますが、三陸沖などで脂肪油をたっぷり含んだカラヌス・プルムクルス(動物プランクトン)を摂って脂肪油を蓄えるので、北の魚や秋から冬の南 下(下り)群は脂がよく乗っています。

 

魚は変温動物で体温が低いために油脂分が常温では液体(脂肪油)で、脂肪油は不飽和脂肪酸を多く含み、ラードや霜降り(脂肪交雑)のように分離せず に筋肉内に液体として浸潤した状態で含まれるため、脂が乗ったサンマ・寒ブリ・トロなどは肉全体が白っぽく見えますが、その状態こそ健康上安全な性状を示 していると言えます。

 

魚介類の脂肪油に含まれる不飽和脂肪酸は中性脂肪やコレステロールを減らす作用があり、高血圧・動脈硬化の予防や治療に効果があると言われ、イワ シ・アジ・サバなどの青魚やブリ・カツオ・マグロなどに多いω-3系のDHAとEPAは、脳梗塞・心臓病・腎臓病・痴呆などの予防に有効で、食肉に多い飽 和脂肪酸や植物油に多いω-6系の不飽和脂肪酸の過剰摂取が関わると見られる大腸ガンの予防にも効果があるとされ、魚介藻類に多いミネラルやビタミンと併 せて、健康な体の形成に不可欠と言われています(続きます)。

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5.魚の味:健康な身体を作るために

2009年05月28日

   先に「旨味の追求が人類の存続に関わる重要な文化・・」と記しましたが『食文化』という言葉が軽く使われていることに対する疑問と味覚の重要性を指摘したものです。

   油脂の『脂味』に慣れると(カロリーが高いために『うまい』と感じる脳の指令で)油脂を欲するようになり、脂肪の多い肉、『脂味』に甘さが加わっているクリーム(やクリーム入り菓子)をよく食べて益々『脂味』嗜好が進んで肥満や病気につながるようです。

   その対策として、ダシの工夫や食材を活かす料理や加工で『旨味』を引き出し、『脂味』や甘さに向かう欲求を抑えることによって健全な食生活を守ることができますが、そのようなことを家庭や社会で積極的に進めることが本当の『食文化』と言えると思います。

 

   「マクガバンレポート」で三大栄養素であるP(タンパク質):F(脂肪):C(炭水化物)のバランス=「PFCバランス」が健康に欠かせないと報告されて おり、理想的な比率は(国、時代などで見方が変わりますが)、熱量比で12~13:20~25:62~68(重量比でおよそ15:10:75)がよいと言 われています。

 

   アメリカはF(脂肪)熱量比が1980年36%、2003年37%と「マクガバンレポート」に背いた形で推移し、日本の基準(BMI値25以上)で見ると、成人男子の肥満の割合は2003年76%で4人に3人が該当する危機的状況です(因みにフランスは46%)。

   日本は農水省統計でF熱量比が1980年25.5%で理想値(中央値)22.5%の1.1倍でしたが、2005年28.9%と1.3倍で、(その結果と思 われますが)2006年の成人男子の肥満者の割合は28%、子供の肥満(体重による基準)は6才5%・12才12%で、いずれも1980年の1.5倍前後 となり、F熱量比の増大に追随するように急激に肥満が増えています。

 

   食肉中の脂肪比率は品種・部分・地域で異なり、日本では特に脂肪が多い牛肉が好まれ、

   霜降り25~40%・赤身10~15%前後で、それだけを食べるとF熱量比理想値を超えます。豚肉は肩10~14%・ヒレ6~8%前後、ブロイラーは腿肉4%(皮を除く)・胸肉2%・

ささ身1%前後で、いずれも牛肉と比べて脂肪が少ない食材です。

 

   畜産用飼料は、オーストラリア等では牛肉の脂肪が敬遠されるので牧草が主体ですが、食肉の脂肪を増やす目的等で穀物飼料が増えており(生産量に対して牛肉 8~11倍: 豚肉5~8倍: 鶏3~4倍を投与)、穀物需要が増えて価格高騰が起き、途上国や貧しい人々が飢餓や栄養不足を強いられる構図があります。

   一方では、脂肪摂取を抑える目的で鶏肉や魚介類が選択される動きがあり、国内外とも健康増進に効果があるDHA・EHPを多く含む魚や各種の海藻が注目され、魚介藻類の積極的な摂取を図る人が増えています。(続きます)

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4.魚の味:大は小を兼ねない

2009年05月26日

   『大は小を兼ねる』の諺があり、子供のケンカ、草相撲、草野球などで大抵大きい方が有利だったことや、戦時の徴兵検査は体格を主として甲・乙・丙にランク づけされ、敗戦後に大柄な兵隊揃いの進駐軍に統治されたこと、欧米の人と自分を比較した印象などで、『大きい方が優れている』と思いがちです。

 

   平均寿命が世界一になり、戦後取り入れたアメリカ的な食事が正しかったように唱える向きもありますが、アメリカは以前から医療費増大が国の財政を圧迫し、 上院委員会が1977年に膨大な「マクガバンレポート」を作成して心臓病やガンなどの発生率を高める肉中心の食生活に警告を発して具体的な改善策を勧告し ました。今、日本より平均寿命が5才短く世界ランク30位前後で、GDP2位の国としてはかなり低い水準にあります。

 

   余談ですが、恐竜、マンモスなど大型化した動物はやがて滅びるとの見方があり、GMなどビッグスリーの窮状は、クルマという『動物』の大型化の経済性・資源消費・環境負荷の影響を見誤ったことと巨大企業の動きの鈍さが招いたと指摘されています。

 

   大相撲5月場所で幕内最軽量の日馬富士が優勝しましたが、既に初代貴ノ花や千代の富士、ボクシングヘビー級のモハメド・アリ、野球のイチローが、敏捷性・瞬発力・しなやかさを備えた身体で旧来の闘い方を覆し、現代に備えるべき身体能力を示唆しています。

 

   一般に体力は、どれだけ重いものを持ち上げられるかという『重さ』で評価されますが、私は各地の漁場づくりを主導し、1俵60kgの土嚢を、延べ数千から 数万俵(数百~数千トン)を陸から船に積み、船から海中に投下する作業の指揮を執り、連日漁師に交じって土嚢を担いだ経験から、実社会では持久力こそ必要 不可欠な能力と考えています。

 

   江戸時代に八丁艪の手押し舟が初鰹を運びましたが、割合近い三崎から江戸まで直線で約15里(60km)あり、順次交替で艪を漕いで4ノット(時速 7.4km)で走ったとして9時間かかる計算です。私は水産高校時代に和船の艪やカッターのオールを漕いでいたので漕ぎ手の体力を推し量ることができます が、当時の舟乗りたちは超人的な持久力を備えており、その力をコメと魚が支えていたことがあらためて注目されます。

 

   和食に加えて多様な食を取り入れて栄養バランスがとれたことが寿命の伸びにつながったと考えられ、欧米や中国などで積極的に魚介藻類を摂取する動きが見られます。

    日本人は飽食と油脂の多い食事を止めて、コメ・豆・野菜・魚・海藻をもっと食べて持久力を備えた体づくりを目指すとともに、食糧確保と食の安全のために自給率向上を強く推進すべきだと思います。

(続きます)

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3.魚の味:『旨味』と『脂味』

2009年05月21日

   筆者は戦後の1949年に東京の小学校に入学して、給食で飲んだミルク(:脱脂乳)が好きになり、この時の『味の刷り込み』のためか今も牛乳が好きです が、占領下の小学校の給食にパン・バター・洋風の副食を出すようにしたのは、アメリカの食糧政策を日本に持ち込むためのGHQの布石(もっと言えば陰謀) であるという説があります。

 

   為政者は民衆の知らぬ内に重要な政策を忍ばせるもので、私の場合は牛乳だけでしたが、

   食糧全体に外国の思惑が及んでいると思うと良い気持はしません。アメリカがエネルギーと並ぶ国家戦略として大規模な農業と畜産を奨励し、穀物メジャーを育 て、食糧の生産と分配において一貫した政策を押し進めている姿勢を見ると、アメリカの政策に唯々諾々と追随している、人のよい日本人の食糧と健康のことが心配になってきます。

 

   小学5年の時に映画館で見た西部劇のジョンウェインの格好よさに目を見張りました。

   当時の日本人の体格はアメリカ人に比べてかなり見劣りし、子供はヤセばかりで、我が家は魚肉ソーセージ1本の他はジャガイモだけのカレーが最高のご馳走で、強い体が作れる(と思えた)ステーキなどをいつかは喰ってみたいと思っていました。

 

   そして今、日本は食糧自給率が40%以下なのに飽食を続けていますが、アメリカのテレビニュースに映る人々を見ると、日本以上に肥満が多いのが気になります。

   先進国で栄養過多や飽食、アフリカなどでは飢餓や栄養不足に陥っている子供の増加、アメリカのドライな食糧政策とグローバル化という名の格差拡大、追従してきた日本の食糧問題など政策の危うさ、『脂味』に慣らされた味覚、に不条理とこわさを感じます。

 

   様々な病気を招くと言われる食肉の動物性脂肪や、菓子やケーキに使われる植物性油脂などの油脂には『脂味のうまさ』がありますが、これがクセ者で、油脂は カロリーが高いために摂取した時に細胞が『うまい』と感じる仕組みがあり、多く摂取するほど脳が益々それを摂るように指示を出し、理性で止めることができ なくなる作用があるようです。

   油脂を『うまい』と感じるのは太古から受け継いできた原始的な感覚で、言わば動物の本能によるものであり、洗練された味わい(食文化)ではないようです。

 

   油脂をふんだんに使う食の欧米化による体格の向上と引き換えに、もっと大切な、適度な食物摂取量+栄養バランス=健康、の基本が損なわれているように思います。

   日本の科学者が発見した『旨味』成分は、肉、魚などのタンパク質の構成要素であるアミノ酸や核酸中のうま味物質や、コンブや野菜のうまみ物質であるグルタ ミン酸などで、料理のうまさはこれらの味を引き出したり、組み合わせたりして作られますが、『旨味』の追求こそ人類の存続にも関わる重要な文化ではないか と思われます。

(続きます)

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2.魚の味 :江戸の味と今の味

2009年05月20日

  マグロの中でも代表格のクロマグロは当時の江戸では賞味されない魚でした。

   江戸の前浜(江戸前:東京湾北部)では獲れず、北上回遊期の6~7月に駿河湾、相模湾、房州の定置網で獲れましたが、獲れる時は大量に網に入るために処理が遅れ、夏の陽に照らされて脂焼けしたものがブツ切りで醤油漬けにされて運ばれたようです。

 

   江戸の人々には、江戸前で獲れるイナダ(ブリの2~3年魚)、スズキ、ボラ、コノシロなど脂身の少ない魚が好まれ、5月になると相模湾などで一本釣り(舟 から竹竿で釣る漁法)で漁穫された本カツオが「初松魚百足のような舟に乗り」と詠われた漕ぎ手12人ほどの八丁櫓の運搬船:押送船によって刺身で食べられ る状態で届けられたようです。

   元々カツオは足(鮮度落ち)が早く、氷がない時代のことで『当たる』こともしばしばで、しかも高価でしたが、そうまでして食べる魅力があったのでしょう。

   他には、小田原・三浦・房総のアジサバ干物、九十九里の大羽イワシ、銚子のサンマなどが東京湾や川・運河を利用した物資運搬船で届けられた記録が残っています。

 

   私は、江戸っ子が脂の乗った秋の下りカツオより初夏の上りカツオを賞味したことに興味があり、行く先々で、上り・下りの本カツオ、スマガツオ、ソウダガツ オ、ハガツオを味わってみました。初めは『脂味』の強い方がうまいと感じられましたが、何度も味わっている内に上りカツオには微妙な『旨味』が感じられ、 後でその『旨味』は肉や鰹節に多く含まれるイノシン酸などのうま味成分によるものと判り、江戸っ子は伊達に初鰹を喰って粋がっていたのではなく、確かな味 覚を持っていたと思えるようになりました。

 

   敗戦が日本の食生活の転機となり、欧米型の食事が健康に良いとして給食にパン・バター・牛乳が出て、やがて経済成長とともに油脂分が少なかった和食中心の 食卓にすき焼き・ハンバーグ・マヨネーズが出るようになり、次第に脂っこい料理や油脂が使われた菓子に味覚が慣らされましたが、そこに至った時間は食の歴 史から見てほんの僅かな間です。

 

   戦後まで支那ソバと言われた東京の中華ソバは『旨味』の中に抑えた脇役の『脂味』がありましたが、今のラーメンはラード・バター・植物油などの油脂を調合 して『脂味』に慣れらされた客を呼ぶように計算され、他の料理も同様で、さらに味を引き立たせる目的で塩分が濃いものが増えており、それによって益々『脂 味』が強まっています。

 

   今、マグロはトロ、牛肉は霜降りが最上とされ、魚ではアジ・イワシ・サバ・サンマなど健康によいDHAやEHPを含む天然の『青魚』が敬遠されて、養殖の ブリ・サケ・ウナギなど『脂味』の強い食材の方に嗜好が向かっています。私はこのような状況が、食=健康な体づくりという基本から外れているように感じて います。(続きます)

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1.魚の味

2009年05月19日

  「魚の味」と言っても色々で、淡白なものからトロのように濃厚なものまであり、イカ、タコ、エビ、カニ、さらに貝やウニ、ナマコなども「魚介類」としてひとくくりにされて広い意味で同じ仲間として扱われるので、以下ここではまとめて魚介類を「魚」とします。

 

   魚と言うと、日本人の多くがまず思いつくのが「マグロ」ではないでしょうか。

   たしかに、マグロの腹身部分の脂肪を多く含んだトロは、『うまい』と感じます。

   ところが、江戸時代でも最も庶民文化が発達した元禄の頃の、舌のこえた江戸っ子は、アブ(脂身の意:腹身=トロ)を下衆(げす)が食うモノとして見下げていたようです。

 

   では、江戸っ子はトロの『旨さ』を知らなかったのでしょうか。

   私は、トロの味はある程度知った上で、それを賞味しなかったのだと思っています。

   そのくせ、「目には青葉 山時鳥 初松魚(カツオ)」という有名な俳句の、脂が乗っていない初夏の上りカツオは「女房を質に入れても食わなけりゃ江戸っ子の面子が立たねエ」などと粋がって賞味していたようです(実際にかなりの高級魚だったようです)。

   なぜでしょうか。

   この辺に、魚や食べ物に対する好みや評価の原点があるように思われます。

(続きます…)

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はじめに

2009年05月18日

  筆者は漁具の設計や販売を業として全国の漁港や漁場を回り、漁師と一緒に網を敷き、魚を獲り、食事を一緒にしてきましたので、漁港や漁場にある食堂や番屋(漁師の宿舎)、時には漁船の上で、獲れたばかりの『うまい魚』を食べる機会に恵まれました。

   『陸(おか)の人間』としては最も多く沖に出て、『うまい魚』を食べた一人だと思います。おかげでウン十年間、文字通りメシを喰わせてもらった者として、 魚と漁業についての体験を書こうと考えました。そうすることで、多くの人にとって魚と漁業への理解が深まり、魚の重要性が再認識され、多少でも漁業のお役 に立てるのでないかと思います。


   尚、このコラムでは、漁業者のことを『漁師』と呼ぶことがあります。

   漁業者は漁業を生業(なりわい)とする一般的な呼称ですが、『漁師』は漁の師(先生)

   という意味であり、時には仕事で命をかける点などで、尊敬の意を含んだ呼称です。

   『師』のつく職業には、教師・医師・牧師・猟師・山師・・など尊敬の意を込めた呼称がありますが、漁師もこれらの『師』に負けないプロの仕事人のことです。

   教員がいても教師は少なく、医者がいても医師が少ないことを感じますが、仕事への情熱とプロの技術で生き方を教えてくれる漁師は少なくありません。

 

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