コラム

8.魚の味:『ロシアの食糧戦略』と、『海藻バイオ燃料』

2009年06月10日

  6月6日の朝日新聞「私の視点」にロシアのメドベージェフ大統領の寄稿記事「食糧危機・高い穀物生産力で解決に貢献」が掲載されました。

 

    地球人口増や食糧問題に関心のある方は、一読されることをお勧めします。

 

    ロシアというと、ソ連時代、終戦間際に中立条約を一方的に破って、日本領土であった南樺太・千島列島・満州に軍隊を送り、日本人を連れ去って極寒の地で強 制労働をさせ、栄養失調や寒さによる多くの犠牲者を出したことや、スターリン時代からソ連崩壊まで一党独裁が続き、得体の知れない怖さがありました。ソ連 の解体でロシアとして再出発した後もイメージが好転することがなく、現大統領の座はプーチン現首相から禅譲されたと言われ、指導力に疑問があるとの見方が 多かったように思います。

 

    筆者は先の記事に目を見張り、抱いていた先入感が変わり、大統領の掲載写真に親近感が湧くとともに、現在はもとより、将来の人口・食糧問題を視野に積極的に農業改革を進めていることを明らかにして協力を呼びかけた姿勢に感動すら覚えました。

 

    食糧問題に対して『パンはすべての頭(何より重要なもの)』というロシアの諺を挙げ、「食糧供給水準こそ生活の質を測る第一の指標である。」という考えで 具体的に農地の面積・質にまで言及して『食糧安全保障の保証人になる』ことを宣言し、「合同穀物会社」設立と懸案の穀物輸送などインフラ整備まで踏み込 み、同国が提唱した世界穀物フォーラム(6月6~7日:サンクトペテルブルグ)に臨む決意を表明しています。

 

    そこには、アメリカ同様に食糧を国家戦略として位置付けていることは疑う余地がありませんが、人類にとって最も大切な食糧の供給に任じようとして、圧倒的 な広さの陸地と、私たちが想像するよりはるかに肥沃な土壌を活かして、穀物など食糧増産に邁進する姿勢に敬意を表し、世界の現状と自国の方向を見極めた判 断力に学ぶべきでしょう。

 

    ロシアは地球の陸地の11%を占め(日本の40倍)、近くカナダやEUを抜いて世界の小麦輸出第2位に躍進すると言われ、未開発の土地を活用すれば、アメリカと穀物生産・供給の主導権争いを演じることも遠い話ではないように思われます。

 

    各国の陸地面積は、ロシアに次ぐ第2グループのカナダ・中国・アメリカ・ブラジル・オーストラリアが日本の約20倍、第3グループのEU・インド・アルゼ ンチン・カザフスタンが約10倍(以上がベストテン)、15~20位のメキシコ・インドネシア・モンゴル・ペルーでも4倍前後で、これらの国と農畜産物の 品質・コストを競うのは並大抵のことではなく、日本の農家は限られた条件下で本当によく頑張っていると思います。

 

    食糧問題の目を陸から海に転じると、日本の領海と経済水域の広さは世界6位であり、そこに領土(陸地)を加えた「領土+領海+経済水域」という尺度では、 ロシアが日本の5倍、アメリカ・オーストラリアが4倍、カナダ3倍、ブラジル・フランス・中国が2倍、インドがほぼ同じ1.1倍で、日本はこれら大国に次 いで世界200カ国中10位です。

 

    この尺度で見ると、日本が大国に伍して食糧増産を進めた上で次世代の産業を構築することが可能と思われ、変化に富んだ陸地と広大な海がもたらす自然の恵みを活用できる先見性と技術力こそ、これからの時代に不可欠だと思います。

 

    海は、これまで廃水や公害など消費・生産活動の負の部分を担ってきましたが、ロシアが広大な陸地を武器に食糧戦略を推し進めるように、日本は海と陸が織り なす多様な地形・気候・生物相を有機的に活用して、50年・100年後を視野にした産業育成と食糧政策の立案と推進が求められています。

 

    その可能性のある一つが『海藻バイオ燃料』です。

 

    既に一部の企業や研究機関が名乗りを上げ、水産庁予算が計上されて海藻の多糖類から単糖を作り出す技術開発が進められています(この技術課題解決が待たれます)。

    尚、この計画はアメリカが先鞭をつけ、陸上での藻類育成と単糖の抽出によって事業化が進みつつあるとの情報があり、日本では海で大規模にホンダワラを養殖するという推測がなされ、日本海の大和堆が候補の一つに挙がっているとの情報もあります。

 

    海藻バイオ燃料計画は燃料だけの発想ではなく、もっと広い視野で考えるべきでしょう。

 

    中国の飛躍的漁業生産にコンブ養殖が貢献したことはほぼ間違いないと見られており、日本各地(例えば瀬戸内海沖合など)で大規模に海藻を養殖すれば、海藻の養殖自体が資源培養に役立ち、食糧生産や環境浄化にも波及させることができます。

 

    海藻養殖事業に漁業者や漁協の協力を得ることによって漁業権問題の解決にもなり、漁村再生に直接寄与することが考えられます。

 

    又、アサリなど二枚貝を並行育成すれば海水浄化と貝類増産にもつながるものであり、ぜひ、そのような視点でこの夢のような計画を推進させることが望まれます。

(当ホームページの「海藻バイオエタノールについて:私の見方)」をご覧下さい)

 

    「海藻バイオ燃料」は一例ですが、海は潜在的な可能性を秘め、広大で、しかも3次元という立体的な許容力を持ち、地球の温度調節や海藻と植物プランクトンのCO2固定力は陸のすべての植物に匹敵すると言われることなど、環境面での恩恵も図り知れません。

 

    もっと海を大切にすることを前提に、視線を海に向けて英知を結集すれば様々な恩恵をもたらせてくれると思います。(続きます)

カテゴリ:魚の味