コラム

23.私の時代認識5

2010年02月02日

【比較社会の呪縛】
 音楽において「絶対音感」を持つ人は、伴奏や雑音に左右されずに正確に音程が表現できます。
思考において「比較」という習慣を止めて本質を究めれば、もっと楽な生き方ができる筈です。


 資本主義社会は競争(=比較)で成り立つ「比較社会」で、成績、学歴、容姿、収入、住宅、結婚相手、地位、健康、寿命・・・一生を通じて、他と比較して競い、勝とうとします。
比較対象によって自己の位置が揺れるので、不安や不満が生まれ不幸を感じるように思われます。

 

  日本人が具えていた「自制・謙虚・思いやり」や、「仁・義・礼・知・信」を尊ぶ心は、欧米コンプレックスと、資本主義による物的豊かさとともに薄れ、「比 較社会」が進むに従って「自分さえよければ」という思考や、相手を蹴落としてでも上に行こうとする生き方が選択されるようになりました。

 

  例えば、地震災害の復興初期では同じような境遇の被災者同士の気持ちが通い、相互に協力しますが、復興が進んで本来の生活に戻れる人が出てくると、そこに 比較心理が働き、戻れない人は戻れる人の幸いを心から喜べない心理が働き、良好な関係が損なわれることがよくあるようです。

 

  私は30年勤務した会社を94年のリストラで退職して起業したものの、先が見えない不安と焦りが募り、落ち込んでいた時、95年1月の阪神淡路大震災が発 生し、その惨状をTVで見て、自分の方がまだ恵まれていると思い込むことによって、気力を振り絞った記憶があります。 

 

  そこから這い上がれたのは、ふとしたキッカケで、存在すら知らなかったキリスト教会に行き、牧師に話を聞いてもらい、その後に礼拝に通って、説教や教会員 との雑談に「比較社会」にはない心の安らぎを得ることができたことと、妻が他と比較をすることなく支えてくれた結果です。

 

 日本は信仰を持たない人が多い国ですが、生きる上で大切なブレない心は、信仰によって得られることがあり、不安を抱いている方はお寺でも教会でも気楽に訪ねてみることをお勧めします。
ご利益(ごりやく)追求ではなく、生きる本質を求めて通えば、何か得られると思います。

 

 2月1日の朝日新聞歌壇に次の一首がありました。

「我が身より重症の人を見る吾が目なんて卑しいなんて哀しい」

 

 病気の作者(女性)の、自分より重い患者を見て落ち込みそうな心をなだめて、それを恥じる、という心境が哀しくもありますが、「自制・謙虚・思いやり」が感じられ、人の心を打ちます。

 この歌から、日本にはヒトを豊かにする心と再生への余力がまだ残っていることを感じます。



【比較社会からの脱却】
 若者の4人に3人が「草食系男子」であると自認している現状は、競争と比較の社会から脱却して生き方を見直したいという強い現れで、時代の転換点になるような気がします。

 

 昨年末の紅白歌合戦で、場違いと思えたオバチャンの登場は「???・・・」と感じましたが、そのスーザン・ボイルさんが、讃美歌のような旋律の「夢破れて」を歌い始めるや、透き通った声と、ひたむきな歌い方が胸に迫りました。

 

 英国生まれで、独身で母親の介護と教会のボランティアを続け、3年前に母親が亡くなった時には既に45歳。 比較社会ではまさに「負け組」ですが、11月発売のアルバム「夢破れて」は人々に希望を与え、特に、国民が方向を見失っていた米国で大ヒットしました。

 

 英国は経済至上から社会民主的な社会への転換期にあると見られ、個々の生きがいを大切にする機運が盛り上がり、彼女のような生き方をする人が増え、それがあの歌となって、グローバル資本主義の行き詰まりで閉塞感に捉われていた米国民の心を揺さぶったのだと推測されます。

 

 彼女が歌う讃美歌からは、人生を急がず、他人と競わず、信仰とともに歩いてきたクリスチャンの一端が窺われます。   これからの彼女の人生においても比較社会に染まることなく、疲れた人々に安らぎを与え続けて欲しいと思います。



【米国社会の未成熟とEUの姿勢】
 オバマ大統領が力を入れている医療制度改革に反対する声が多く、賛否両論がぶつかっています。

 

  米国では医療費が国家財政を圧迫し、70年代前半にGDP比7%を超え、さらに増大が予測された77年、心臓病(死因1位)・ガン(2位)・肥満の要因と して肉の摂りすぎを指摘した5千ページに及ぶ、上院栄養問題特別委員会「マクガバンレポート」で食生活の改善を促しました。

 


 「マクガバンレポート」は、医療業界と食肉業界から猛反発を受け、国民の間に「好きなものを食べてどこが悪い」という「自由主義」的反感もあって政策が奏功せず、医療費負担はGDP比で80年10%、90年12%、2000年15%、09年18%と増大し続けました。

 

 マクガバンは飢餓や貧困問題に取組んだリベラル政治家で、72年大統領選挙で民主党候補として、ベトナムからの即時撤退を公約に掲げて、現職ニクソンと争いましたが大差で敗北しました。

 

 当時の米国民がベトナム派兵増強を支持した結果で、持論として展開していた栄養・健康政策が、それを嫌う業界勢力から反撃を喰ったことも影響したもので、今は二つとも歴史上の誤った選択であったとされ、マクガバンの本質的な事象の捉え方が正しかったと評価されています。

 

 「マクガバンレポート」にはP(タンパク質):F(脂肪):C(炭水化物)のバランス(PFCバランス)をとることが不可欠で、理想値は、熱量比で13:22:65前後と報告されています。

 

 米国のF(脂肪)熱量比は、1980年36%、2003年37%で理想比の1.6倍で、肥満度を示すBMI値の、25以上を肥満とする日本基準によると、米国成人男子肥満者は76%で4人に3人が該当しており、男女を問わず肥満が非常に多いのが目につきます。

 

  その結果、長年GDP首位にありながら(GDPと寿命は正相関)、寿命ランクは世界30位で先進国ではかなり低い水準で、肉などの飽食⇒治療費増大と寿命 低迷という構図から抜け出せずにいますが、米国の隣で地震に遭って壊滅的なハイチに救援が届かない状況を見ると、先進国の飽食と、途上国や低開発国の食糧 不足があらためて対比されます。

 

 米国の医療費は非常に高く(おおまかに日本の10倍)、典型的な資本主義の利益追求型青天井報酬方式で、特に保険扱いの治療費は法外な金額が計上されているようです。

 

  オバマが進めようとしている未加入者4600万人救済を目指した政策は、医療費をそのままにして進めると財政をさらに圧迫する懸念があり、低所得層に多い 未加入者の「自己責任」を問う声と、医療費を下げたくない業界圧力で進まず、エゴと政策がせめぎ合っている感があります。                                       


 米国は世界のリーダーとして「自由」を尊ぶ国として振舞っていますが、「自分さ えよければ」的行動で倫理や摂理から外れていく点で未熟であり、仏・独・日・サウジアラビアなどの「同盟国」が離反しつつあるのは、米国の「自由主義」に 違和感を覚えているためではないかと思います。  



 EUでは、先の大戦で敗北した独と伊が、英・仏とともに互恵的で大局的な姿勢を打ち出し、後から加入した東欧などに配慮した政策を進めて域内経済の底上げを図っている姿が見られ、これからの日本のあり方として学ぶべきことが多いと思います。(続きます)

カテゴリ:私の時代認識