コラム

18.魚の味:富山湾の魚5

2009年12月21日

四季折々、日本海を北上又は南下する回遊途上の魚が富山湾に入ってきます。無論富山湾で生まれて湾内で一生を過ごすものもいます。

その内、私が獲った(又は拾った)ものやよく食べたものをいくつか紹介します。

 
【ホタルイカ】

ホタルイカは日本海全域に見られ、普段は水深200m以上の深海に生息していますが、産卵のために富山湾東部の富山市、滑川市、魚津市の間の20kmほどの狭い範囲の海岸に押し寄せてきて春を告げます。

  全長7~8cm、体重10gほどの小さいイカで、触手の先と胴部腹側に発光器があって、刺激を受けると青紫色の鮮やかな光を放ち、夜中に岸壁や砂浜に泳ぎ着くのを懐中電灯で捜してタモですくい上げて歩くとバケツ1杯ほど拾えることがありました。

 

滑川や魚津の定置網で大量に獲れる時は光の乱舞が幻想的で、船から見る観光客が喜び、漁師は毎年決まったように来てくれる「お客様(ホタルイカ)」を喜びます。

沿岸で獲れるホタルイカは交尾を済ませた雌で、雄は交尾後すぐに死んで殆ど見当たらないと言われており、定置網で一度に10トン(約100万尾)ほど獲れることもあり、ボイルした酢味噌和えは大変旨いものです。

 

ホタルイカが富山湾の滑川や魚津に集中して押し寄せてくるのは急深で複雑な海底谷などの地形と冷たい雪融け水が誘うのではないかと推測され、ホタルイカと いう愛らしい生物と、それを毎年決まった季節に招いてくれる壮大な山と川と海に「神、又はSomething Great」の恩恵を感じます。

 

全くの余談ですが、NHK朝ドラ「ウエルかめ」のヒロインが勤めている出版社の編集長役を好演している室井滋さんは滑川市出身で魚津高校を卒業していると のことで、彼女が高校に通っていた頃、私は水産専門商社A社の営業拠点(出張所)を魚津高校のすぐ近くに開設し、県内全域、石川県、新潟県、北海道(根 室・釧路・函館)、三陸(八戸・気仙沼)を飛び回っていました。無論、室井さんが近くにいたことは知る由もありませんが、テレビで彼女を見ると同郷のよし みのような親近感を覚えます。

 
【アマエビ(和名ホッコクアカエビ)、ズワイガニ】

アマエビとズワイガニは山陰以北で獲れ、北海道でも獲れますが、身びいきのためか最初に食べた衝撃からか、富山湾で獲れたものが一番旨かったように思います。

北海道では和名トヤマエビ(本州のボタンエビと混同されて北海道でボタンエビと呼ばれることが多い)、ホッカイエビ(北海道で北海シマエビと呼ばれる)、 ケガニ、ハナサキガニ等の非常に旨いエビ・カニの仲間がありますが、アマエビとズワイは本州日本海側で獲れる代表的なもので、それぞれ刺身は糖分の甘みと は異なる上品な甘みと味わいがあり、深緑色のヒスイのような卵を抱えた妖艶な紅色サンゴ色の姿態をしたアマエビは食べるのが勿体ないようで、ズワイの均整 のとれた姿と何色とも表現しがたい微妙な色合に人知が及ばない自然の造形美を感じます。

 

1970年頃に底引網で獲れたばかりのズワイガニを木箱に一杯貰って帰り、玄関の土間にそのまま置いたところ、元気のよいのが這い出して動き回り、それを知らないで帰宅した妻を絶叫するほど驚かせたことがありました。

足は殻を外した身を氷水につけると生体反応で花が咲いたようになって見た目にも鮮やかで甘さが一層感じられ、ボイルしたものは話をするのも惜しいほどに食べたことや絶品のカニ味噌(中腸腺)をすすったことが思い出されます。

 

県境の越中宮崎から新潟県の能生にかけてズワイガニより深い場所でのカゴ漁業でベニズワイガニが獲れ、ズワイガニとは少し味わいが異なりますが値段も手ごろで、国道8号線沿いで売っているのをよく買って帰りました。

私の家では子どもたちが小さいころから(離乳食から)魚や刺身を食べさせ、時には腹一杯食べさせることができたので、魚に関して(だけ)はぜいたくをしました。

 

尚、カニはボイルで食べるのがほとんどでしたが、ドリップが出てしまうことから最近では蒸しガニや焼きガニが主流になっており、同様に最近では野菜を煮ず に、白菜などの葉野菜は68度C前後で蒸すことによってシャリシャリ感と食材が持っている甘み等の本来の味を楽しめるので急速に広がり、都会では蒸し料理 の店では順番待ちの列ができているとのことで、ホタテなどの貝も一層旨さが引き立つようです。

 
【カレイ、クロダイ、キス、メバル、イシダイ】

冬のカレイ(イシガレイ・マコガレイ)、春のクロダイ、夏のキスは富山湾のどこの海岸でも釣ることができました。

いずれも産卵期に雌は卵を持ち、私は薄暗い早朝(朝まずめ)から日の出1時間までを目処にして、黒部川の左岸(黒部市生地)と右岸(入善町芦崎)から50mほど投げるとよく釣れ、晩酌に最高の肴になり、旬の味が凝縮して大変旨いものでした。

 

メバルとイシダイは、夏に、険しい海際の道で知られる新潟県の親不知(おやしらず)海岸の崖を下って、沖200mほどの岩場を潜って、ワンパク時代の経験から復活させた手製の銛でよく突きました。

  直径3~4mほどの岩が重なってできた大きな隙間にメバルが群になって泳いでいるのを、魚が重なった時に引き絞ったゴムを放すと、時には2尾まとめて突 くことができ、磯の王者イシダイは好奇心が強く、突きそこなって一度逃がしても「あれは何だったのか?」というように戻ってくるので、辛抱強く待つて「幸 運を仕留めた」ことが何回もあります。

 

クロダイとイシダイは定置網でも獲れる魚で(メバルやキスは定置網では獲れな い)知り合いの網に乗って行った時、一度にクロダイ1000尾(数トン)、イシダイ20~30尾ほど獲れたことがあり、普段は単独で行動するクロダイも産 卵期などに群を形成して移動することがあるようで、スズキも産卵期の冬に4~8kgの大型が100尾以上獲れたことがあります。イシダイはしっかりした身 質の刺身の味が濃厚で、アラは煮てもよく、頭を焼いて丼に入れて熱燗を浸した「骨酒」は最高です。

 

脂が乗った魚は旨 いものが多いのですが、「脂が乗っていること」=「旨い」ということではなく、スズキは脂が乗らない夏が旬で肉に旨味があり、その洗い(これも生体反応の 利用)が絶品です。スズキの洗いは東京(あるいは江戸)から広まったと推測され、繊細な江戸っ子の舌が高度な食材利用(料理)を生みだしたと思われます。

 

尚、富山県の漁業者は刺身を甘口の醤油で食べます。彼らがサケマス、マグロ、イカ等の漁船で出港する時に地元の味噌や醤油を大量に持ち込んで行くのをよく目にしました。

東京生まれの筆者は初め甘口の醤油に違和感を覚えましたが、繰り返して味わっている内に脂の乗った魚はその甘口の醤油が馴染むことが分かってきました。

 

又、氷見や魚津では刺身にワサビや生姜を使わずに大根おろしを添える漁師がいますが、確かに大根おろしは脂の乗った魚に合います。今でも時々乗船させても らう宮崎県延岡市島浦の定置網漁場では刺身の醤油に柚子を絞りますが、現地で夏の盛りに仕事で汗を流した後はサッパリ感があって刺身が一層旨く感じられま す。 このように調味料も地域の食材や気候・風土と関係を保っているわけです。

 

カレイ、クロダイ、キスは能登半島内 側の石川県穴水、七尾から定置網の本場である湾奥の富山県氷見、新湊でも獲れ、湾内の海岸で釣りや刺網でも豊富に獲れた魚ですが最近は減少しているとのこ とで、1980年代まで黒部川河口の左岸や右岸に早朝から釣人が並び、午前中に一人で50枚も釣れたカレイや大抵の人が20~30尾ほど釣れたキスが全く 釣れなくなったようです。

黒部川河口でカレイやキスが釣れなくなった時期は、黒部川の5つのダムの内、出し平ダムの排砂ゲートを開けて溜まった土砂やヘドロを定期的に排出し始めた1990年代と重なります。

 
【自然と人工の調和】

ダムは水と共に土砂も貯めてしまうので時々排出しないと埋まってしまいます。

ダムがない川は水と一緒に土砂を流し、河口に三角州を形成し平野を作りますが、ダムによって時々まとめて人為的に排出することになり、沿岸に来遊する魚はもとより、その周辺ではアマエビのように深い場所に生息する魚介類も影響を受けるとみられます。

 

富山湾には小矢部川、庄川、神通川、常願寺川、白岩川、早月川、片貝側、小川など約100の河川が山から下って平野を潤していましたが、ダムや工業用取水 などで流れが不規則になり、時には水が流れずに川底が露出することもあり水(地下水)や魚への影響は非常に大きいと考えられます。

 

川や海は人工の造作物だけではなく、自然そのものの変化を恒常的に受けています。

魚津市は「魚の津」に示されるように、沖に向かって遠くまで砂浜が続いていた所です。

それは、私の友人が子ども時代の50~60年ほど前のついこの間のことで、人の寿命未満の僅かな間に数百メートルも海岸が後退して砂浜がなくなり、今の一 帯は人家や道路に覆いかぶさるように高いコンクリート護岸と三角錐のコンクリート塊(通称テトラポット)で保護されている所もあり、その護岸工事がなけれ ばもっと浸食されて後退していたと推測されます。

 

一方、富山湾の各所で1980年頃に沖合50~100mほどの所に 海岸線に平行してコンクリート塊を積み重ねた離岸堤が見られましたが、その内側に砂の堆積によって砂浜が形成されるようになっていたのに驚くとともに、動 いている自然に対する人間の柔軟でしたたかな知恵を感じました。

その効果が間違いないものかどうかはその後確認していませんが、人工の 造作物は自然との調和の中でこそ残れるものであり、永い時間の中で日本列島が移動しているのに、そこに不動不変の造作物を構築しようと考えるのは無理があ り、自然の長いスパンで見れば短い間に破綻を来すことが容易に想像されます。

 

例えば、ダムをどうしても造らなくては ならない場合には、地形の変化など自然の動きを十分把握した上で、哺乳類、鳥、木々、草花などの目に見える動植物はもとより、魚、昆虫、ミミズ、コケ、藻 類、プランクトン、バクテリア、に至るまでの生命の仕組みと循環を勘案しなければならないこと、それらの自然をヌキにして人間だけでは生きられないことを 認識すべきで、それは現在の急速な温暖化を見れば明らかであり、人類の存続のためにもう一度謙虚に振り返ってみることが問われています。(続きます)

カテゴリ:魚の味