コラム

17.魚の味:富山湾の魚4

2009年11月16日

【サクラマス】

 富山湾は「キトキト」の(鮮度がよい)旨い魚が豊富ですが、今サクラマスが赤信号です。

 

 サクラマスは富山では「本鱒」と呼び、味は最高級で、紅サケや、北海道では知られている高級魚「ケイジ(鮭児)」と並ぶ旨さがあり、富山の「鱒の寿司」はサクラマスの押し寿司で、サクラマスが美味なので「鱒の寿司」が旨いのは当然と言えば当然です。

 

 サクラマスは夏には稚内付近やオホーツク海まで北上して成長し、桜の季節に川を遡上してヤマメ(同じ魚で育ちが違うだけ)が生息する上流まで辿り着いて産卵し、その稚魚が海に下ると「サクラマス」、陸封(河川や湖に残ったもの)が「ヤマメ」になります。

 

  富山県には黒部川、上市川、明治時代に河川工事のオランダ人技師が「これは川でなく、滝だ」と表現した常願寺川など立山連峰を源流とする急流があり、上流 には滝もあり、遡上するのは大変なエネルギーが必要ですが、黒部川に黒四ダムが出来る頃までは、サクラマスが遡上する数も多く、隆盛した日本海鱒流し網漁 業によって漁獲されました。

 

【自然破壊】

 日本各地で獲れたサクラマスは、ダムの影響などで急減し、今は手間と費用を掛けて養殖していますが、自然が無償で育てる天然ものと比べて味はかなり落ちます。

 

  日本は海、川、湖、山に恵まれ、魚が豊富だったために、何千年もの間に自然の恩恵を享受してきましたが、歴史的には僅かな、最近の数十年の間に行われた、 ダム、埋立て、護岸、海砂の採取など、狭い視野や近視眼的施策によって、これ以降、計り知れない恩恵を失い、又は失い続けるという事実(自然破壊)が多す ぎる気がします。

 

 仮にダム建設で毎年1万尾のサクラマス資源が失われると、1尾2,000円として年間2千万円 となり、歴史的にはごく短期の100年で見ても、1つのダムによってサクラマス1魚種だけで20億円の損害を被ることになります。損害はサクラマス1魚種 だけではなく、影響を受けるすべての生物(動植物から微細生物まで)を計算したら膨大な数値になる筈です。

 

 では、その損害は誰が受けるのでしょうか。直接被害者は農家や漁業者ですが、実は日本国民がその損害を広く受けており、これからも受けるのです。しかも「確実に」です。

 

 政権が変わり、公共事業見直しが進み、一部の事業では工事続行を主張する声が上がり、様々な論議を呼んでいますが、最も大切な視点を忘れた主張には説得力がありません。

 

 最も大切な視点とは、山も海も川も『現在そこに居る人間がたまたま利用させてもらっている。』のであり、そこで行われた結果は「子子孫孫の、その後にまで尾を引き、その影響は生物ピラミッドの底辺にまで広がるが、それでも恥じることがないか。」という問いです。

 

 日本海鱒流網漁業は、外国に入漁料を払わないで操業できる貴重なサケマス漁業でしたが、ダムによって資源減少が進み、事業として成立しなくなって消滅しました。

 黒四ダムがある黒部川が注ぐ入善・黒部海域は、時々ダムから流す多量の土砂によって漁場荒廃が進み、友人が経営しているアマエビ漁業も資源枯渇のピンチに陥っています。

 

【サケマス漁業】

 戦後の食糧難時代に遠洋漁業による国の食糧確保政策に乗って函館を基地とする母船式サケマスと、道東の釧路・根室を基地とする独航船単独操業による中部(中型)サケマスが全盛期を迎え、富山県は中部サケマス流網漁業が盛んでした。

 

 私が水産専門商社の本社から富山県に転勤したのが1970年で、遠洋漁業でも隆盛を極めたサケマス流し網漁業が終焉を迎える前の、花火がパーッと光るような勢いがありました。

 

 富山県の漁業者(船主)は釧路・根室を基地とする中部サケマス漁業に進出して現地に番屋と呼ばれる拠点を持って、4~7月にサケマスを獲っていました。

 

  当時は64トン級の漁船1隻に20名ほどが乗り、ソ連(ロシア)海域まで入って、夜明け前から総長30kmもの網を入れ、夜まで漁獲したサケの塩蔵処理を して、翌朝、又操業するという過酷な労働でしたが、約1ケ月の航海で1億円の水揚げをする船もあり、船主は我が世の春を感じたものと思われます。

 

 サケマス船に納入した機器のメンテナンスと次の漁具受注の業務で花咲などの漁港に駐在して、沈みそうになるまで魚を積んで満船状態で次々に入港してくる船を迎えたことや、(勘定が)銀座並みという呑み屋を夜明けまでハシゴしたのも、今は昔の話です。

 

  なぜ富山県の漁業者が北海道まで行ってサケマスを追いかけたのか、という疑問を色々な人に訊くと、勤勉な県民性、二・三男が出稼ぎを余儀なくされた気候や 風土、北海道との歴史等を教えてくれましたが、私は漁師があの『旨いサクラマス』を追いかけて行った先に、一世を風靡したサケマス漁業があったと見ていま す。 人間はカネによって動く動物でもありますが「あの魚を今年も食いたい」という単純な動機で動く動物でもあるからです。

 

【遠洋漁業は沿岸漁業】

 遠洋サケマス漁業が事実上終わった原因は、200海里漁業水域と、日ソ(日ロ)漁業関係にありますが、端的には『日本の遠洋漁業は相手国の沿岸漁業・沖合漁業である』という事実を思い知らされたということに尽きます。

  どんな漁業でも大洋の真ん中では成立せず、水産資源は沿岸の浅い海域ほど豊富であり、海岸線から水深200mまでの大陸棚の内側が世界の主漁場で、そこは 沿岸域で当然その国が主権を持っています。ロシアのサケを日本が獲れなくなったのは当然であり、自国の山、平野、川、海を大切にすることしか日本が生き延 びられないのも、又、当然です。(続きます)

カテゴリ:魚の味