コラム

16.魚の味:富山湾の魚3

2009年10月16日

 定置網に潜る前は、『素潜りでも浅い所も魚はいくらでも見ることができた。今度は魚を集める定置網の中で、潜水に必要な機能をすべて備えた器具を使って 潜るのだから、網のあちこちで魚の行動が見られる。』とワクワクして、(実は素人が潜るのには最も危険な)定置網の周囲や網の中に入って行きましたが、魚 は殆ど見つけられません。

 

 大海を往来する多くの魚にとって網は海で遭遇する最も危険な物であり、本当は近寄りたくない筈で、行く手を遮られた魚群はそれを回避しながら本来向かうべき方向に行こうとしますが、運悪く網の中に入ってしまうことがあり、必死に出口を探します。

 そのような状況下で、大きな動物(私)が泡を大量に吐き出しながら足をバタバタさせて動けば、魚にとって歓迎したくないのは自明であり、その音(水中では遠くまで達する)を聴いてさっさと難を避けて移動してしまうわけです。

 

 尚、魚群には決まったリーダーが存在するのではなく、いち早く情報をつかんだ数匹の魚がある方向に向かうと、その時点でのリーダーになり、群全体がその動きに従います。

 例えば、群が海を遮断する網に直角に向かった場合は先頭集団が先に網に遭遇し、行き場がなくなるので次の行動を躊躇すると、後続の魚が瞬時にそれを察知 して、横又は後方の状況を把握するためにさっと散らばり、その内の数匹がある方向に向かうと素早く群全体が従うという行動様式です。

 

 群の中心部の魚が、それらの情報を瞬間、瞬間で何によって得て、行動を決めているのかは不明ですが、「一糸乱れず」という形容がピッタリの、実に見事な連携行動です。

 

 魚の動きの観察には、こちらから出かけて行ったのでは見ることができないので、袋網の入口である昇り(前図④)と金庫⑦入口(通称「廊下」)の上から シュノーケルを使って数時間ずつ何回か観察したことがありますが、そのような先細りの形状を警戒して、魚がなかなか入ろうとしませんでした。

 

 それは当たり前のことで、判断を間違えれば命を失うことになるかも知れないという状況下で、危険を感じる方向へは誰だって行きたくないのであり、群の総力を結集して迅速に情報を収集して判断を下し、危険ではない方向に逸れて行くわけです。

 では、どうして魚が網に入ってしまうかというと、「網の中に入ってしまった」と思わないような大きな網にしておくことが基本であり、そのために定置網は 非常に大きく形成されており、袋網の入り口を段階的に小さくして、逃げ場を探し当てられない魚に逃げ道だと勘違いさせることによって次第に奥の方の箱網⑤ や金庫⑦に誘い込む構成にしています。

 

 魚の行動は魚種、成長度、群の大きさ、水深、明るさ、時刻、等によって変わりますが、定置網はただひたすらに「間違って入ってくる魚」を待ち続ける根気強い漁法です。

(「魚の味」という本題から脱線したので、戻しましょう)

 

 富山湾で私が「旨い」と思った魚は、春のホタルイカ、ハチメ(メバル)、クロダイ、サクラマス、キス、夏のスルメイカ、越中バイ、秋のフクラギ(イナ ダ)、アカカマス、ヤマトカマス、秋から冬のガンド(ワラサ)、アマエビ(ホッコクアカエビ)、冬のブリ、マダラ、二ギス、ズワイガニ等は、他の産地のも のと比べて一味違うように思われます。

 

 これらの魚介類は、脂が乗った方が旨いと感じられるものが多く、富山湾の地形などの特性がその味を育んでいると言えます。

 

 魚の味を決める要素はやはり餌だと思われ、それに水温が関係していると考えられ、「旨さ」は何によるのかという点は、ブリで調べたように脂質が大きな要素とみられます。

 

 但し、脂が乗っていれば旨いかというと、そうではない場合もあります。

 

 12月の定置網で大量に獲れるスズキは型も大型で脂が乗ってよく太っていますが、肉が白く、鍋には向いていますが刺身では柔らかくて味に切れがなく、あまり旨いとは感じられず、東京湾で夏にとれる透きとおった弾力のある身質と比べると数段落ちるように感じます。

 

 東京湾の冬のスズキもかなり食べましたが、これは適度に脂が乗って、夏のスズキには及びませんが刺身でも洗いでも結構旨かったのを覚えています。

 

 スルメイカは、春先は肉が薄いものが多く、これを好む人は漁師に多く、夏に適度な脂があって晩秋になると肉質が硬くなるのでスルメ、沖漬け、塩辛に向いています。

 

 対馬は「川でもマツイカ(対馬ではスルメのこと)が獲れる」というほど冬の定置網で大量に水揚げされますが、味はイマイチで対馬の漁師はこれを殆ど食べず、甘みのあるケンサキイカ(対馬ではヤリイカと呼ぶ)を専ら賞味します。

 

 夏から初秋の佐渡や富山湾のスルメイカ(釣りイカ)の刺身は甘みもあって美味で、これを干したスルメは見事な鼈甲色で甘みや旨味が実に濃厚でした。とこ ろが、天日干しから冷風乾燥になって味が落ち、さらに、佐渡ではニュージランドの釣りイカ冷凍品(マツイカ)を使うようになって「佐渡スルメ」の評判が一 気に凋落したのが残念です。

 

 ところで、イカの刺身を作る時にどのように切っていますか。

 

 人によっては胴を開いて縦に二つに切ってその幅で刻む方法をとりますが、漁師は先に一定長さに胴切りした後に縦に刻む人が多いようです。この方は胴に走る繊維に沿って切るので、舌触りが滑らかで、函館のイカソーメンはこの方法で切っています。

 

 切り刻む幅をどうするかについては、肉の厚みと同じ幅で切るとコリコリ感が出て、鮮度がよいように感じられ、肉厚のものや肉質が硬い場合は厚みより薄く切るとネットリ感が出て甘みが感じられます。この辺の好みは人それぞれでしょうか。(続く)

カテゴリ:魚の味