コラム

2.魚の味 :江戸の味と今の味

2009年05月20日

  マグロの中でも代表格のクロマグロは当時の江戸では賞味されない魚でした。

   江戸の前浜(江戸前:東京湾北部)では獲れず、北上回遊期の6~7月に駿河湾、相模湾、房州の定置網で獲れましたが、獲れる時は大量に網に入るために処理が遅れ、夏の陽に照らされて脂焼けしたものがブツ切りで醤油漬けにされて運ばれたようです。

 

   江戸の人々には、江戸前で獲れるイナダ(ブリの2~3年魚)、スズキ、ボラ、コノシロなど脂身の少ない魚が好まれ、5月になると相模湾などで一本釣り(舟 から竹竿で釣る漁法)で漁穫された本カツオが「初松魚百足のような舟に乗り」と詠われた漕ぎ手12人ほどの八丁櫓の運搬船:押送船によって刺身で食べられ る状態で届けられたようです。

   元々カツオは足(鮮度落ち)が早く、氷がない時代のことで『当たる』こともしばしばで、しかも高価でしたが、そうまでして食べる魅力があったのでしょう。

   他には、小田原・三浦・房総のアジサバ干物、九十九里の大羽イワシ、銚子のサンマなどが東京湾や川・運河を利用した物資運搬船で届けられた記録が残っています。

 

   私は、江戸っ子が脂の乗った秋の下りカツオより初夏の上りカツオを賞味したことに興味があり、行く先々で、上り・下りの本カツオ、スマガツオ、ソウダガツ オ、ハガツオを味わってみました。初めは『脂味』の強い方がうまいと感じられましたが、何度も味わっている内に上りカツオには微妙な『旨味』が感じられ、 後でその『旨味』は肉や鰹節に多く含まれるイノシン酸などのうま味成分によるものと判り、江戸っ子は伊達に初鰹を喰って粋がっていたのではなく、確かな味 覚を持っていたと思えるようになりました。

 

   敗戦が日本の食生活の転機となり、欧米型の食事が健康に良いとして給食にパン・バター・牛乳が出て、やがて経済成長とともに油脂分が少なかった和食中心の 食卓にすき焼き・ハンバーグ・マヨネーズが出るようになり、次第に脂っこい料理や油脂が使われた菓子に味覚が慣らされましたが、そこに至った時間は食の歴 史から見てほんの僅かな間です。

 

   戦後まで支那ソバと言われた東京の中華ソバは『旨味』の中に抑えた脇役の『脂味』がありましたが、今のラーメンはラード・バター・植物油などの油脂を調合 して『脂味』に慣れらされた客を呼ぶように計算され、他の料理も同様で、さらに味を引き立たせる目的で塩分が濃いものが増えており、それによって益々『脂 味』が強まっています。

 

   今、マグロはトロ、牛肉は霜降りが最上とされ、魚ではアジ・イワシ・サバ・サンマなど健康によいDHAやEHPを含む天然の『青魚』が敬遠されて、養殖の ブリ・サケ・ウナギなど『脂味』の強い食材の方に嗜好が向かっています。私はこのような状況が、食=健康な体づくりという基本から外れているように感じて います。(続きます)

カテゴリ:魚の味